地震、台風、パンデミック、サイバー攻撃。企業の事業継続を脅かすリスクは多岐にわたります。BCP(事業継続計画)は、こうした緊急事態が発生した際に事業を中断させない、あるいは早期に復旧させるための計画です。しかし、中小企業におけるBCPの策定率は約2割にとどまるという調査結果もあり、多くの企業が「必要だとは思うが手がつけられていない」状態にあります。
本記事では、BCP(事業継続計画)の作り方を中小企業向けに解説します。大がかりなものではなく、まず最低限の対策を形にすることを目指した実践的なステップを紹介します。
BCP(事業継続計画)とは何か
BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)とは、自然災害やシステム障害などの緊急事態が起きたときに、重要な事業をできるだけ中断させず、中断した場合でも速やかに復旧させるための方針・体制・手順を定めた計画書です。
防災計画との違いを明確にしておくと理解しやすくなります。防災計画が「人命と財産を守ること」を主な目的とするのに対し、BCP(事業継続計画)は「事業を止めないこと」に焦点を当てています。もちろん人命の安全確保は大前提ですが、BCPはそのうえで事業の継続・復旧まで計画するものです。
中小企業にとってBCPが重要な理由は明確です。大企業と違い、経営資源の余裕が限られているため、事業の中断が長引くと資金繰りに直結し、最悪の場合は廃業に追い込まれるリスクがあります。資金繰り改善の方法と併せて考えることで、財務的なリスクにも備えられます。
BCP策定の5つのステップ
BCP(事業継続計画)の策定は、以下の5つのステップで進めることができます。最初から完璧を目指す必要はありません。まずは簡易版を作り、段階的に精度を上げていく方法が現実的です。
ステップ1:リスクの洗い出し。自社にとってどのようなリスクがあるかを整理します。地震・水害などの自然災害、感染症、サプライチェーンの途絶、サイバー攻撃、主要人材の離脱など、業種や地域に応じてリスクは異なります。発生確率と影響度の2軸でマッピングすると、優先的に対策すべきリスクが明確になります。
ステップ2:重要業務の特定。すべての業務を同時に復旧させることは現実的ではありません。「もし48時間以内に復旧しないと致命的な業務はどれか」という視点で、重要業務を絞り込みます。売上への影響、顧客との契約義務、法的な要件などを考慮して優先順位をつけましょう。
ステップ3:目標復旧時間の設定。重要業務ごとに「何時間(何日)以内に復旧させるか」を決めます。これをRTO(Recovery Time Objective)と呼びます。取引先や顧客の期待値と自社の対応能力のバランスで決定します。
ステップ4:対策の立案。各リスクに対して「予防策」と「発生時の対応策」を検討します。データのバックアップ体制、代替拠点の確保、緊急連絡網の整備、主要業務のマニュアル化などが代表的な対策です。
ステップ5:計画書の文書化と共有。策定した内容を文書化し、関係者全員に共有します。棚にしまっておくだけの計画書では意味がないため、いつでもアクセスできる状態にしておくことが大切です。
中小企業が優先的に取り組むBCP対策
BCP(事業継続計画)の対策としてまず着手しやすいものを整理します。リソースが限られている中小企業だからこそ、効果が大きい対策から始めることが重要です。
データのバックアップ。顧客データ、経理データ、業務システムのデータは、クラウドストレージに自動バックアップする仕組みを整えましょう。オンプレミスのサーバーだけに依存していると、災害時にすべて失われるリスクがあります。DXの始め方で紹介しているクラウド移行の考え方が参考になります。
緊急連絡網の整備。緊急時に誰が何をするかを明確にした連絡体制を整えておきます。固定電話やメールが使えない状況を想定し、複数の連絡手段(チャットツール、SMS、SNSなど)を用意しておくと安心です。
主要業務のマニュアル化。特定の人にしかできない業務がある場合、その人が出社できないだけで事業が止まります。属人化している業務を洗い出し、手順書を作成しておくことは、BCPだけでなく日常の業務効率化にもつながります。自走する組織のつくりかたの考え方と通じる部分です。
取引先の分散。仕入先や外注先が1社に集中していると、その企業が被災した場合に自社も連鎖的に影響を受けます。複数の調達ルートを確保しておくことで、サプライチェーンの途絶リスクを軽減できます。
BCPを「使える計画」にするための訓練と見直し
計画を作っただけでは、いざというときに機能しません。BCP(事業継続計画)を実効性のある計画にするためには、定期的な訓練が不可欠です。
机上訓練は、最もハードルが低い方法です。「震度6の地震が発生し、本社ビルが使えなくなった」というシナリオを設定し、関係者で「誰が何をするか」を確認します。所要時間は1〜2時間程度で済むため、まずはこの形式から始めると取り組みやすいです。
実地訓練は、実際にバックアップシステムへの切り替えや代替拠点での業務を試します。机上訓練では見えなかった課題(パスワードが分からない、マニュアルの手順が古いなど)が浮き彫りになることが多いです。
訓練後の振り返りが最も重要です。発見された課題を記録し、BCPに反映させるサイクルを回すことで、計画の精度が上がっていきます。KPIダッシュボードの仕組みを活用して、対策の進捗を可視化しておくと管理しやすくなります。
kotukotuが伴走した小売業のクライアントでは、業務プロセスの見える化を進める中で、未使用のサブスクリプションサービスを含む無駄なコストを洗い出し、年間180万円のコスト削減を実現しました。BCPの策定過程で業務を棚卸しすると、リスク対策と同時にコスト改善の機会も見つかることがあります。コスト構造改革もあわせて確認してみてください。
BCP策定に使える支援制度と外部リソース
中小企業がBCPを策定する際に活用できる支援制度を紹介します。
中小企業庁のBCP策定ガイド。中小企業庁が無料で提供しているBCP策定ツールがあり、Excelのテンプレートに沿って入力していくだけで基本的な計画書が作成できます。初めてBCPに取り組む企業に適した教材です。
事業継続力強化計画の認定制度。経済産業大臣に申請し、認定を受けると、税制優遇や補助金の加点措置を受けられます。認定要件はBCPほど厳密ではなく、中小企業にとって取り組みやすい制度です。
商工会議所・商工会の支援。各地の商工会議所ではBCP策定セミナーや個別相談を実施しています。同業他社の事例を知ることもでき、自社に合ったBCPのイメージを掴みやすくなります。
損害保険の活用。BCP(事業継続計画)を策定している企業向けに、保険料の割引を適用する損害保険もあります。計画策定が直接的なコストメリットにつながるケースもあるため、保険会社に確認してみてください。
BCPと経営戦略をつなげて考える
BCP(事業継続計画)は「守り」の施策と捉えられがちですが、経営戦略と一体で考えることで、より大きな価値を生みます。
BCPを策定する過程で、自社の事業構造や業務プロセスを棚卸しすることになります。この棚卸しは、日常の経営改善にも直結します。「この業務は本当に必要か」「この仕入先に依存しすぎていないか」という問いは、BCPの視点であると同時に、経営効率化の視点でもあります。
また、取引先からBCPの策定状況を問われるケースも増えています。特に大企業のサプライチェーンに入っている中小企業では、BCPの有無が取引条件に影響することもあります。BCPの策定は、取引先からの信頼を高める効果もあるのです。
経営改善の優先順位を整理する際に、BCPの視点を組み込んでおくと、リスク対策と経営改善を同時に進めることができます。売上改善の取り組みと合わせて、攻めと守りの両面から経営基盤を強化しましょう。
まとめ:BCP(事業継続計画)は「保険」ではなく「経営力」
- BCPは緊急事態に事業を継続・復旧するための計画であり、防災計画とは別物
- 5つのステップ(リスク洗い出し、重要業務特定、目標設定、対策立案、文書化)で策定できる
- まずはデータバックアップ・緊急連絡網・業務マニュアル化から着手する
- 定期的な訓練と振り返りが、計画を「使えるもの」にする
- 策定過程で業務の棚卸しができ、コスト改善の機会も見つかる
- 公的な支援制度や認定制度を積極的に活用する
BCP(事業継続計画)は一度作って終わりではなく、経営環境の変化に合わせて更新し続けるものです。完璧を目指すより、まず小さな一歩から始めることが大切です。
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